銀行預金 “だけ” しておくだけでは安心なのか?
多くの方は、何かあったときのために「銀行口座にお金を預けておこう」「まずは貯金を積み立てよう」と考えることが多いでしょう。「銀行にお金を預けておけば安全」「目減りすることはない」こう感じている人は少なくないと思います。
しかし、もし世の中の物価がじわじわ上がり続けたら? 同じ100万円でも、買えるモノ・サービスの量が年々少なくなっていったら?
そのとき、単に銀行に「額面通りに」預けてある100万円は、本当に「安全」でしかないのでしょうか。
結論を先に言えば、 銀行預金は“額面”としては減りません(=銀行が破綻しない限りお金が消えるわけではない)が、実質的な価値(購買力)はインフレに負けて目減りする可能性が極めて高い、という点に注意が必要です。
昨今、日経平均が4万8000円を突破し、金の価格が2万円を超えました。eMAXIS Slim 全世界株式も3万円を突破して以来、日々上昇し続けています。これらは景気が良くなって上がっている訳ではなく、紙幣価値下落による価格上昇だといわれています。
なぜそうなるか、どのくらい現金の価値として目減りするか、どうやって備えればよいかを、今回は順を追って見ていきます。
インフレとは何か?お金とモノの価値の関係
インフレの定義と意味
「インフレ(インフレーション)」とは、一般的には 物価が継続して上昇すること を指します。すなわち、モノやサービスの価格が平均的に上がっていく現象です。
逆に物価が継続して下がることを「デフレ(デフレーション)」と呼びます。
物価が上がるということは、同じお金で買えるものが少なくなる、ということ。たとえば今100円で買えるジュースが、明日には110円になっていれば、100円では買えず現金の価値は目減りしているわけです。
このように、インフレは お金の“価値”(購買力・実質価値)を下げる力 を持っています。
「額面の金額」と「実質価値」の違い
銀行預金の残高という意味では、100万円を預けていれば、仮に預金口座が無傷ならば100万円は残ります。これを「名目金額」や「額面金額」と呼ぶことがあります。
しかし、100万円で買えるモノ・サービスが将来少なくなってしまうなら、実質的には価値が目減りしている、ということになります。この「実質価値」が減るのがインフレによるお金の目減りです。
たとえば、物価上昇率が毎年 2 % と仮定したとき、5年後には
100万円÷(1.02)5≒90.4万円100万円 ÷ (1.02)^5 ≒ 90.4万円100万円÷(1.02)5≒90.4万円
相当の購買力に落ちている可能性がある、というイメージです。
野村アセットマネジメントも、インフレ率2%が続いた場合、20年後には現金の実質価値が約67万円相当になる可能性を示す試算を紹介しています。
つまり、額面金額は保たれても、「現金を買ってくれる価値」は年を追うごとに下がるのです。
銀行預金(普通預金・定期預金)と金利の現実
「インフレで目減りする」という話をするとき、多くの人はこう考えるでしょう
「でも、銀行預金には利息がつくから、それでインフレをカバーしてくれるのでは?」
残念ながら、現時点ではその期待に応える水準の金利は得られていないことが普通です。
たとえば日本では、普通預金金利が極めて低く(たとえば年 0.001 % 程度)であるのに対して、消費者物価の上昇率が 2〜3 % を超えることもあります。
この差、つまり「物価上昇率 − 預金利率」がマイナスになる状態を「実質金利マイナス」と呼ぶことがあります。
実質金利マイナスの状況では、預金しているだけではインフレに追いつかず、実質価値が目減りしてしまいます。
このような現実を受けて、「銀行預金=安全で十分」という昔の常識は、インフレ時代には通用しなくなる可能性があります。
どのくらい目減りする?シミュレーションと実例
実際に、「インフレで銀行預金が目減りする」ことを数字でイメージできると、リアリティが出てきます。以下、いくつかのシミュレーションと実例で、見てみましょう。
シミュレーション例:年率 2〜3 % のインフレ
仮に、あなたが 100万円を銀行預金に預け、かつその預金金利はゼロと仮定します。そして、世の中の物価が毎年 2 %、または 3 % 上昇し続けるとします。
- 年率 2 % の場合
5年後の実質価値相当:100万円÷(1.02)5≒90.4万円100万円 ÷ (1.02)^5 ≒ 90.4万円100万円÷(1.02)5≒90.4万円
10年後:100万円÷(1.02)10≒82.0万円100万円 ÷ (1.02)^{10} ≒ 82.0万円100万円÷(1.02)10≒82.0万円
20年後:100万円÷(1.02)20≒67.2万円100万円 ÷ (1.02)^{20} ≒ 67.2万円100万円÷(1.02)20≒67.2万円 - 年率 3 % の場合
5年後:≈86.3万円≈ 86.3万円≈86.3万円
10年後:≈74.4万円≈ 74.4万円≈74.4万円
20年後:≈55.4万円≈ 55.4万円≈55.4万円
このように、インフレ率が高いほど、将来の実質価値の下落は大きくなります。
とある議論によれば、仮に年3 %のインフレが続いたとすると、銀行預金は10年後にかなりの価値を失ってしまう可能性があると指摘されています。
また、マネー・オマネコの記事では、物価上昇率 0〜3 % の間で 30年続いた場合、銀行預金がどれほど目減りするかという試算も載せられており、減り幅の大きさを強調しています。
実際の日本での状況:物価上昇 vs 預金金利
日本の最近の傾向を見てみましょう。
- 消費者物価指数は、2022年以降、食料品・燃料などを中心に上昇傾向が目立っています。
- 一方、普通預金や定期預金の金利は、極めて低い水準にとどまっており、そもそも預金で稼ごうとするにはハードルが高い状態です。
これにより、多くの預金者は「預金しておけば安心だ」と思いつつも、実はインフレによって資産がじわじわ目減りしている可能性があります。
また、経済系メディアには、「インフレ時代は ‘銀行預金からお金を逃がす’ がベスト」というような論調を取ることも増えています。つまり、預金だけに頼らず、何かしら“価値を保持・増やす力を持つ資産”を持っておくべきだ、という議論です。
なぜ銀行預金だけでは不十分か?リスクと限界
ここまで説明した通り、インフレ下では銀行預金だけでは実質価値が目減りするリスクがあります。それでは、「預金がダメ」というわけではありませんが、限界と注意点を整理しておきましょう。
(1)実質金利マイナスの時代
先述したように、預金金利を上回るインフレ率が続くと、預金の実質価値は下がります。「預金額面 − インフレ率分」のギャップをどう埋めるかが鍵です。
(2)機会損失の問題
仮にインフレに強い資産(株式、不動産、金、債券、インフレ連動債、外貨建て資産など)があるのに、全額を銀行預金に置いてしまうと、「もっと価値を増やせた可能性」を失う機会損失が生じます。
銀行預金は“安全性”を重視した選択肢ですが、安全性と収益性のバランスをどう取るかが課題です。
(3)流動性・用途別の使い分け
すべてのお金を投資やリスク資産に回すわけにはいきません。日々の生活資金、安全資金、緊急時の準備金など、すぐ使える預金をある程度持っておくことも重要です。
例えば、「生活防衛資金(3〜6ヶ月分程度)」などは、流動性重視で預金に置くべきという考え方があります。
(4)元本保証とリスクのトレードオフ
銀行預金は「元本保証(ほぼ安全)」という強みがあります。一方、株式や投資信託は価格変動リスクがあります。リスク資産には元本割れの可能性もあるため、慎重に選ぶ必要があります。
つまり「安全性」と「価値の維持・増加可能性」をどう折り合いをつけるかが、資産運用のテーマになります。
インフレに強い(あるいは耐性がある)資産・手法
では、インフレ時代に銀行預金だけでなく、どういう資産を持つ・運用することが考えられるか、代表的なものを紹介します。ただしいずれもリスク・コストが伴います。
① 株式・株式型投資信託
企業は、物価上昇を販売価格に転嫁できれば売上・利益も上がる可能性があります。したがって、インフレ下では「モノを作って売る企業」の株式には堅調性が見込まれることがあります。
ただし、すべての企業が有利になるわけではなく、コスト増大や原材料高騰、賃金上昇などの逆風を受けやすい業種もあるため、銘柄選び・分散が重要です。
② 不動産・REIT(不動産投資信託)
土地や建物、賃貸収入を生む不動産は、物価上昇とともに賃料や物件価格が上がる可能性があります。インフレヘッジの観点で伝統的に注目される資産です。
ただし、流動性が低く、管理コスト・修繕費・空室リスク・金利上昇の影響などを考慮する必要があります。
REITは比較的少額から投資でき、流動性も高めですが、株式市場の影響を受けやすいというデメリットもあります。
③ 金(ゴールド)・貴金属
金は「誰の債務でもない資産」「インフレや経済混乱に対するヘッジ」として選ばれることがあります。実際、国際的な不安定状況で金価格が上昇することもあります。
ただし、金自体は利息を生まないため、長期的には価格変動リスクがあります。
④ 債券・インフレ連動債(物価連動債)
通常の債券は、固定利息・満期返済があるため、インフレには弱い面があります。なぜなら、実質利回り(受け取る利息・元本を物価上昇で割ったあとの価値)が目減りする可能性があるからです。
しかし、 インフレ連動債(物価連動債、物価に合わせて利払い・元本調整がされる債券) は、インフレに対して防御力を持つよう設計された債券です。ただし、日本国内で取引の流動性や種類が限定的なこともあります。
⑤ 外貨建て資産・外貨預金
もし日本国内だけでインフレが進むなら、日本円の価値低下を避けるために、外貨を保有する選択肢があります。たとえばドル・ユーロ・豪ドルなど外貨預金、外貨建て債券・投資信託などです。
ただし為替リスクが付きまといます。円高・円安の変動によっては逆効果になる可能性がありますので、慎重な検討が必要です。
⑥ 分散投資・積立投資
どれか一つに偏るのではなく、複数の資産クラス(株式・債券・不動産・金や外貨など)に分散して投資することがリスク軽減につながります。
また、定期的に一定額を投資する「積立投資」は、価格変動リスクを平準化(ドルコスト平均法など)する効果が期待できます。
とある事例
安心志向で預金中心だったけど…”
まみさん(仮名)は、30代後半、子どもがひとり。これまで、給料をもらったらまず貯金しておく――というスタンスで生きてきました。給与天引きで毎月15万円を普通預金に積み立て、長期的にどんどん増えるだろうと信じていました。
あるとき、ふと「これで将来大丈夫か?」と思い始めます。テレビやネットで「インフレ」「物価上昇」「資産防衛」という言葉を見聞きするようになったからです。
まみさんは調べてみました。例えば、今100万円を持っていて、物価が年2 %で上昇し続けたら、10年後には実質的な価値は 82万円くらいになってしまうという試算を目にします。そう考えると、「銀行に預けていれば安心」という感覚が揺らぎます。
しかし、投資は怖い。元本割れしないか不安。株? 不動産? 何にどうやって手を出したらいいか…悩みます。
結局、まみさんは次のような戦略を選びました:
- まず、日常生活資金・緊急資金(たとえば半年〜1年分)は銀行預金で確保
- 余裕資金(数十万円程度)を、株式・投資信託・金・外貨建て商品の一部に振り分け
- 積立投資を始め、長期・分散を意識。たとえば毎月 1 万円ずつ株式型投信を購入
- 定期的にポートフォリオを見直す。インフレや金利環境の変化に合わせて配分を調整
このように、まみさんは「預金だけでは安心できない」感覚を受け入れつつも、リスクを抑えながら資産を守る道を模索し始めました。
では具体的にどう備えるか?ステップと注意点
インフレ時代に備えるための「実践ステップ」を、初心者にもわかりやすく整理しておきましょう。
ステップ 1:現状把握と目標設定
- 自分の資産(預金・株・不動産・保険など)を一覧にする
- どのくらいの期間で、どのくらいの資産を維持・形成したいか(5年後、10年後、老後など)
- リスク許容度を考える(どれくらいの価格変動を許せるか)
- 流動性(すぐ使えるお金)と長期運用資金を切り分ける
ステップ 2:銀行預金の“適切なゾーン”を決める
すべてを預金に置くのではなく、生活費・緊急用・直近の目標達成資金(車購入、住宅頭金など)は預金を一定量残しておきます。そのうえで、余裕資金を運用に回す比率を決めます。
(例)月収の 1〜2 割、または余裕資金の 3割を運用に回す、など。
ステップ 3:インフレ耐性のある資産を取り入れる
前節で紹介したような資産クラスを、一気に全部ではなく少しずつ取り入れていくとよいでしょう。
- 株式(国内株・外国株)
- 投資信託(株式型・バランス型)
- 不動産・REIT
- 金(純金、ETF など)
- インフレ連動債・物価連動債
- 外貨建て資産
最初は、リスクが比較的低めで流動性もあるもの(株式型投信・バランス型ファンドなど)から始めるのが現実的だと思います。
ステップ 4:分散と積立を意識する
すべての資金を一度に投じるとタイミングリスクがあります。そこで:
- 複数の資産クラスに分散
- 定期的に購入する(積立投資)
- 一定期間ごとに配分を見直す(リバランス)
こうした工夫で、価格変動リスクをある程度緩和できます。
ステップ 5:コスト・税金・手数料を意識する
運用にかかるコスト(信託報酬・売買手数料など)、税金(配当・譲渡益課税)を無視してはいけません。これらが利回りを大きく削ることがあります。
特に長期運用を念頭に置くなら、「コストが安い商品」を選ぶことが大事です。
ステップ 6:定期的な見直しと学び
経済環境は変わります。金利政策、インフレ率、為替、世界情勢などが資産運用に影響を与えます。定期的に情報をチェックし、投資配分を見直す心構えを持っておくとよいでしょう。
また、金融リテラシーを高めておくことも重要です。本やネット記事、セミナーなどで知識をアップデートしていきましょう。
まとめ的整理と最後に
ここまで見てきた内容を、もう一度整理しつつ、最後に注意点を補足しておきます。
要点まとめ
- 銀行預金(名目金額)は減らないが、インフレ下では「実質価値(購買力)」が減る可能性が高い
- 今の日本では、預金金利が非常に低く、物価上昇率を上回る利回りは得にくい
- 銀行預金だけではインフレに“負ける”可能性があるため、預金+運用のバランスが重要
- インフレ耐性のある資産(株式、不動産、金、外貨、物価連動債など)をポートフォリオに取り入れる
- 分散・積立・コスト意識・リスク管理を意識して運用する
- 定期的な見直しと学習が不可欠
注意・リスクについて
- すべての運用資産にはリスクがある(価格変動、元本割れ、為替変動、流動性リスクなど)
- 運用で得た収益は税金の対象になることがある
- 経済や金融政策の変化は予測困難。常に環境は変わる
- 情報や商品選びを誤ると、思わぬ損失を被る可能性もある
結局、“銀行預金だけで安心”という発想は、インフレが抑制されていた平成時代や低物価時代には通用したかもしれません。しかし、物価が徐々に上がっていく可能性が高まる現代では、預金が「守り」の役割を果たす一方で、「資産が目減りするリスク」への対策も考えておくことが求められます。
最後に
コロナがひと段落した2022年以降、インフレ傾向が顕著となり、2024年以降、インフレが一層と加速しています。スーパーで1枚90円で買えていた板チョコは今や200円の時代を迎えています。
このように通貨が弱くなっている実感があるかと思いますが、「投資」と聞くとアレルギーを起こす方もいるかと思います。ですが、自身の大切な資産をインフレから守るには投資について学び、少しの勇気を持って一歩進むしかありません。
それでも不安という方は、金製品を購入してみてはいかがでしょうか?